介護をしている方にとって、認知症の様々な症状に遭遇することは日常茶飯事かもしれません。
症状によっては、「どうしたらいいの?」と対応に困ってしまうことが多くあるのではないでしょうか。
でも大丈夫です、安心してください。
それぞれの症状についての特性を理解して対応方法を変えることで、「どうしたらいいの?」と困ることを減らすことができます。
私は認知症治療病棟で働いており、ほぼ毎日認知症のかたと接しますが、対応するポイントを知って対応することで、困ることが減り、患者さんの笑顔が増えました。
認知症は少しずつ進行しますので、症状も変化していきます。家族や周りの人々が認知症の症状を理解し、進行に合わせて対応することが必要です。
この記事では、具体的なエピソードを交えながらアルツハイマー型認知症の症状に上手に対応するポイントを徹底解説します。介護のストレスを軽減し、介護者と介護を受ける方の生活の質を向上させるためにも、この記事を参考にしてみてください。
変化する認知症の症状に合わせて対応することが必要
認知症の症状は、人によって異なるだけでなく、時間の経過とともに変化していきます。
アルツハイマー認知症の進行には個人差がありますが、平均して10年以上かかるとされています。
ただし、進行の速さや症状の出現順序には個人差があり、患者の状態は常に変化するため、介護者は常にその状態に合わせた対応が必要となります。
認知症には、中核症状と周辺症状があり、認知症特有の症状です。
アルツハイマー型認知症の初期症状
認知症の初期症状は、老化と混同されることが多いので注意が必要です。
初期の特徴は、記憶障害で少しずつ進行していきます。
現実を認識して、時間の感覚が保たれており、身体的な影響は及んでいない状態です。
本人が認知障害を意識できるので、不安や抑うつ的になりやすくなります。
記憶力の低下
新しい情報を覚えることが困難になるため、何度も同じことを聞いたり、同じことを話したりすることがあります。
直前のことをすぐに忘れることがあります。
判断力の低下
日常生活での判断力が低下するため、お金の管理やショッピング、調理などが困難になります。
言葉理解力の低下
聞いたことや読んだことが理解できなくなります。
自分の思考をうまく表現できなくなります。
時間や場所の感覚が狂う:
時間や場所を正確に認識することができなくなります。
アルツハイマー型認知症の中期症状
中等度認知症では、日常生活においての判断力や決断力が低下し、言動や行動に不安定さが見られトラブルを起こすようになります。
周りからも「これはおかしい」と思われるようになっています。
介護者は患者さんとコミュニケーションを取りながら、ストレスを与えないような環境を整える必要があります。
周辺症状(BPSD)を発症し、介護者にとっての負担も大きく、一番介護が大変な時期とも言われます。
記憶力の低下
中期になると、長期記憶や短期記憶の喪失が進み、家族や友人を認識できなくなることがあります。
昔のことはよく覚えていることが多い。
言語能力の低下
語彙や言葉の理解力が低下していき、日常会話が難しくなることがあります。
空間認識能力の低下
場所の把握や方向感覚の低下が見られます。
歩行に不安定さが現れ、転倒のリスクが高まります。
判断力や決定能力の低下
日常生活での判断力が低下し、物事を正しく判断できなくなることがあります。
服装や食事の選択ができなくなったり、家の鍵を閉め忘れたりすることがあります。
行動や性格の変化
不安や混乱、興奮や抑うつなど、様々な感情の変化が起こります。
性格が変わることがあり、以前とは違う行動をすることがあります。
周辺症状が(BPSD)の出現
中核症状に加えて本人の性格や生活環境、不安、心理的葛藤によって生じる心理・行動上の異常です。
- 妄想・幻覚
- 徘徊
- 不安・抑うつ
- 収集癖
- 興奮・暴言・暴力
- 作話
- 失禁
周辺症状(BPSD)は、必ず発症するとは限りません。
しかし、認知機能障害に何らかのかの環境要因が加わって引き起こされます。
認知症の方を取り巻く全ての環境要因を整えることで穏やかに過ごすことにつながります。
アルツハイマー型認知症の後期症状
後期になると、認知機能の低下に加え、意欲の低下が著しくなります。
身体的にも低下がみられ、寝たきりになることも少なくありません。
在宅でのケアが難しくなる場合が多く、専門の施設に入るケースがおおくなります。
日常生活のほとんどすべてに介護が必要で負担が非常に大きくなくなるからです。
記憶障害
最も顕著な症状の一つで、周囲の人物や場所、時間の認識が全くできなくなることがあります。
記憶力も低下し、自分自身のことも忘れてしまうことがあります。
言語障害
言葉が理解できなかったり、話したりすることができなくなる場合があります。
他人の言葉を理解することも困難になっていきます。
身体的障害
手足の動きが鈍くなり、歩行困難になります。
自分自身での身の回りの世話ができなくなります。
嚥下障害
食べ物や飲み物を嚥下することができなくなり、嚥下障害を発症することがあります。
食事の量が減少するため、栄養不良に陥ることもあります。
認知症の代表的な3つ症状の上手な対応のポイント
アルツハイマー型認知症の代表的な症状に上手に対応するポイントを解説していきます。
代表的な症状は、以下の3つです。
- 徘徊
- 不潔行為
- 収集癖
徘徊
徘徊は、本来「目的もなく歩き回る」という意味があります。
徘徊とよばれ、それが重大な問題のある行動とされている原因は、介護者側からの視点で捉えているからです。
認知症の方からみれば、徘徊する理由があり、理由がわかればそれは徘徊という意味から逸脱するということになります。
徘徊対応のポイント
- その人の話をじっくり聞いてその行動を理解する。
- その人とともに行動し、よい人間関係をつくる。
なぜ徘徊するのかを理解することで、「いつ」「どこで」徘徊するのかを把握することができます。
基本的には、徘徊は見守りをしながら容認することが大切です。
そして、デイサービスなどの参加や本人が夢中になる代替を探して、対策を講じていきましょう。
徘徊を止めることは非常に難しいことですので、抑制や制止はしないようにしましょう。
容認できない事情がある場合は、一時的に専門の施設に預けることも必要となります。
Aさんの場合
Aさん(女性・80代)は、学校の先生をしていたかたで、昔を知る方は「しっかりした方です。」と言われる方でした。
Aさんは、「しごと、しごと」と、うろうろと歩き回り、何でも自分のものと思い込んで持っていき、それを制止しようとすると抵抗するのでした。
そこで、歩き回ることは、Aさんの意思表示でありAさんらしさだと考え、自由に歩いてもらおうと発想の転換をして、見守りと観察、環境整備をAさんのペースに合わせるようにしました。
今まで、介護者側の視点では「落ち着いて過ごしてもらおう」と考えていたため、あることが悲観的になっていましたが、容認することで介護者に心の余裕ができるようになったのです。
心の余裕ができたことによって、Aさんとの信頼関係が構築でき、うろうろすることが少なくなったのです。
不潔行為
不潔行為は、一般的に不快感を与える程度以上の行為のことです。
身だしなみや部屋などの散らかし、ひどくなるとゴミや便をいじります。
認知障害で本人が不潔だと思わなくなっているので、いくら説得しても改善は難しいのです。
不潔行為対応のポイント
- その人の価値観を共有する
- その人のこれまでの歴史を振り返る(性格や社会性など)
- 役割・仲間・生きがいづくり
どうしても気になる場合は、本人の自覚を喚起する方法で、改善を促していくしかありません。
いかに社会的関係性をもっていただくかが鍵となります。
その一つが役割意識を持つことであり、家庭や地域の中で役割を自覚していただくことが、解決法といえるのではないでしょうか。
Bさんの場合
Bさん(男性・80代)は、毎日一日一人で繰り返し、人と接する機会が全くなく、Bさん自信も会おうという気がない方です。
身なりを全く気にせず、黒ずんだトレーナーに膝の破れたズボン、髪は伸び放題、手足の爪は真っ黒で、かなり異臭のするような状態でした。
関係を築くための、週1回の自宅訪問を続けていく中で、顔や手足がキレイになったのです。家族に聞くとお風呂に入るようになったとのこと。
Bさんにとっては、安心できる家にいながら、ときに自分の話に耳を傾けてくれる人、信頼できる人が訪れるのを待つ、これが身なりを整えることにつながっていったのです。
収集癖
物を集める理由は、単純な場合が多いです。
- 自分のものだと思っている
- 片づけるため
- 使うため
- 無意識
など、害のない理由です。
問題となるのは、「他人の物」を持っていったり、「危険なもの」を持っていったりする場合です。
本人は、悪気はないため、制止しても効果はありません。
収集癖対応のポイント
- その人の話をじっくり聞いてその行動を理解する
- その人と価値観を共有する
- いつ?どこで?誰の?何を?どのように?という収集の行動を把握する
価値観を尊重し、共感すると、その人らしさが見えるようになります。
物を集める行為に、害がない場合は、見守りながら容認しましょう。
問題が生じる場合は、見守り、観察することや収集する場所を制限したり、収集したりするものを安全なものに置き換えるなど対策が必要です。
物を集めることで安心感を得ている場合、しまっている場所をいっぱいにすると収集癖がなくなったというケースもあります。
Cさんの場合
Cさん(女性・80代)は、農家に嫁がれ、畑仕事と家庭を支えてこられました。
しっかりもので人付き合いもよく、知人からしたわれていたそうです。
そのCさんは、色々なところを歩き回っては、目につくものを衣類の中にしまっていました。
他人のものに手を伸ばすこともあり、制止したり、勝手に片付けたりすることもあり、症状が悪くなっていました。
なぜCさんがこのような行動にでるのかを知るため、共に過ごし何でも一緒にするようにしたのです。
一緒に過ごすことで、Cさんの落ち着ける環境をつくり、その場所に集めてきたものを置くようにしました。「これかわいいでしょ」と雑誌や布、カップなどを見せてくれるようになり、収集癖が落ち着きました。
Cさんの価値観では、集めたものはかわいいと感じるもので、それを持っておくことで安心したかったのです。
その人の価値観を尊重して関わることがとても大切です。
認知症の症状に対応する介護者の支援
認知症介護は、症状を理解し、本人を尊重した対応が必要です。
しかし、介護する側がストレスをためて倒れてしまうと、その後のサポートができなくなってしまいます。
自分だけで抱え込まず、相談窓口を利用するようにしましょう。
- 地域包括支援センター
- 電話相談
- 認知症疾患医療センター
- かかりつけ医
厚生労働省に相談先がまとめられていますので参考にしてください。
まとめ:認知症は症状の進行にあわせて対応しましょう
この記事では、認知症の進行と代表的な症状の対応ポイントについて解説しました。
- アルツハイマー型認知症は進行性の疾患で、初期・中期・後期、経過と共に変化する
- 徘徊・不潔行為・収集癖の対応ポイントは、その人の理解を深めること
- 介護者は、自分だけで抱えこまず、すぐに相談する
認知症介護には様々な課題がありますが、その中でも重要なポイントを押さえることで、認知症の方が快適な生活を送ることができます。
介護は、長期化するほど負担が大きくなります。専門の相談窓口や介護サービスをうまく使って無理のない介護をしていきましょう。